『愚かなり、わが心。』
天が…蒼天が……
堕ちてきたとしても……
これほどに…愕きはしないだろう……
「ちょ…う……りょ……」
歯を立てた赤い痕の残るゆびが、乾いた埃を吸って、ところどころざらついた被服を、引き剥いてゆく。
その流暢は、いっそ、賛嘆に値する。
磐石の巌のような体躯に押しひしがれた、言葉を飾らなければ貧弱と形容するしかない痩躯は、肉食のケダモノに喰らわれる小動物めいて、哀切だった。
関節の上に分散して載せられた体重は、郭嘉の躰をけして痛めるものではなかったが、突然の暴虐に、ゆびいっぽんの抗いも許さぬ強靭な戒めとなった。
「おまえの舌は、武器だろう?」
郭嘉を組み敷く男の表情は、卓子の上から投げかけられる灯火のかそけき朧な光に浮かび上がる半顔の、静謐な眼差しだけが窺い知ることができるすべてで、郭嘉のいかなる推量や忖度をも拒絶する深淵があった。
「じ…自分が…
な…何をしているか!
判っているのか」
「……じゃじゃ馬馴らし」
「!!!」
人非人!
卑劣漢!!
色情狂!!!
破廉恥!!!!
好色魔!!!!!
「気の済むまで喚いていいが…
俺の耳には聞こえないぞ」
…言葉とは、それを解するものにとってのみ、意味がある。
半裸の肌膚を、ありなしの夜風が撫でた。
身動きもならぬ理不尽な拘束に、反撃を試みはするものの、彼我の純然たる体力の違いは、郭嘉におのれの無力さを思い知らせこそすれ、この現状の打開にはなんの貢献もしなかった。
「自分の言葉に酔うのは、さぞや気持ちのいいものなのだろうな」
女に身を沈め、思うさま昏い色の粘膜を擦りたてて姦し、堰を切る放精の切迫に精神をゆだねて虚無へ翔ぶ爽快に幾層倍するほどに。
耳許に寄せられた唇から、滴り零れ落ちてくる夢魔の囁きに似た言葉に、郭嘉は背筋の痺れるような眩暈を覚えた。
初めて逢ったのはいつのことか。
|| モドル|| 『滔天廻路:上演作品目録』|| ススム||
製作年月日:04/11/07
文責:市川春猫