『奥様は軍師:番外編〜君と夜明けのコーヒーを』





 〜奥様の名前は郭嘉。そして、旦那様の名前は張遼。ごく普通の二人はごく普通の恋をしごく普通の結婚をしました。でも…でも、たったひとつだけ違っていたのは、奥様は軍師だったのです〜



 降っても晴れても。



 『奥様は軍師』のファーストシーズンの再放送が、深夜放送の時間帯で、流されていた。
 飽きずに何度見たものか、ストーリーも科白もサブタイトルさえ覚えてしまったというのに、奥様は、ご機嫌麗しく、何度も繰り返し、番組を眺める。
 エンディングが終わり、次回予告のあと、ほんの3分にも満たないスポット的なニュース番組の中で、帝室に慶事があることを、キャスターが伝えていた。
「奉孝、ただいま」
 なぜだか不可解な廻りあわせで、いろいろなものを拾ってしまう旦那さまの奇癖…は、曹孟徳の擁する優秀なるスタッフのなかではつとに知られた『事実』となっていた。
 メガネカイマンで驚かされた奥さまは、たいがいのものでは動じることがなくなったのだけれども…
 まさかに。
 そう。
 旦那さまがキングギドラを拾っても、アダムスキー型の円盤を持ち帰っても、まして、核弾頭をお土産にしても、是が非でも驚かないぞ、と心に決めていた奥さまであっても…
 こればかりは…
「……文遠!!!」
 あまりの衝撃に裏返りかけた声が、凍てついた。
「……どこから拾ってきた!!!」
 大柄な、旦那さまよりもまだ雄偉というよりはもはや魁偉な…人類史上最も無敵と謳われたその男は…巨体を旦那さまの陰に隠すようにしているつもりだろうけれどもさっぱりそのようには見えず…遠慮がちに、こう云ったものだった。
「せ、せ、せ、世話に、なる」








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製作年月日:2005/08/16
文責:市川春猫