『君知るや、我が心。』
気がつくと…
動いたとも見えずに張遼は、郭嘉の傍らに、立っていた。
あらためて、思い直すほど、男は偉丈夫でありながら、上背のある男にありがちな威圧感を見るものに、与えない。
青龍刀の、極まりのない修練ののちに自然に備わった身のこなしは、一流の踊り手のそれに似て、流麗だった。
光とは、人智の象徴だとか……
朧な光のようやくに届く、ひとの理性の及ぶ場所から、なにもかもが闇のしじまに溶けて混沌となる、無意識の領域までは、あと…一歩。
そこには魔物が潜んでいる。
ひたひたと…波打ち際で、鬩ぎあう。
眼を瞠いたまま見る夢に、溺れるか。
「……!?」
欲望は、掴み取れ。
快楽は、奪い取れ。
盗んだ果実は甘く…偸んだ愉悦はさらに甜い。
「……張遼!」
名のみは…漢人の響き。
遥かな時の流れと悠かな地平の交差する十字路で混淆された血脈に連なることは明白な、異質な風貌の男の、世の規範を侵犯する逸脱に、郭嘉は無駄と知りつつ、抵抗を試みる。
「こ…の……ケダモノ!」
言葉に嘘を持たないのだから。
それは人間以下か、動物以上の…いきもの。
郭嘉は暴虐の正体を見抜いている。
「はぅ……」
引き剥いだ胸元は、陽の光を知らぬかに、皓い。
うすい肌膚は、扱いを間違えたなら、爪でさえ傷がつきそう……
まるで作り物めいて繊い鎖骨は、ケダモノの、牙の尖りが触れただけでも砕けてしまいそうに、危うい。
人形遣いの手際の妙で、男の指は、郭嘉の膚を必要な場所だけ露出させてゆく…
逃がしは、しない。
掴み締めたなら、男の力を柔らかに受け止めて指を形に添って沈ませる乳房のある躰ではなし…自分のどこに、男を惑溺させるなにがあるのか……
性の嗜癖とは倒錯こそが常態なので、郭嘉の問いには答えなど…『ない』と云うのが答えなのだけれど……
身体の感性よりも頭脳の理性を信奉する郭嘉には、承服しかねる理不尽だった。
わが身を支えるための筋力すら、ややもすると覚束ないのではないか、と、男の目には映る起伏のない半裸が、蠢く…とも見えない揺らめきかたで、それゆえに淫猥に…男の体躯の下で、くねり、うねる…
喰らわれる……
弱肉強食。
……餌食となる不運な犠牲が、懇願したからといって、聞く耳を持つ捕食者など、居はしない。
「……ぁ」
華奢を…そう視るのは男の勝手ながら……穢す背徳が、男をいっさんに高みの果てへと逸らせる。
胸が、苦しい。
……いや。
ココロガ、セツナイ。
わたしは、なにをされている……
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