『君知るや、我が心。』




 何事に付け、凝り性で興味を持ったものを突き詰めずには居られない曹操は、建築そのものにも造詣が深かったけれど、その内側である室内装飾にも、彼独特の審美眼を持っていた。
 ほかの諸将たちは都の一等地にそれぞれ特徴のある広壮な屋敷を与えられていたが、新参の張遼には、街外れのうら寂しい場所に、小さな陋屋が当座にあてがわれ、それっきり、何の沙汰もなかったのだが、ある日突然、曹操から差し回されたという職人の集団が現れ、一昼夜のうちに内装工事をしおおせ、機能性と快適性が両立した瀟洒な一軒家に生まれ変わらせてしまった。
 家具や壁面を飾る書画骨董、果ては茶碗のひとつまで、張遼の好みを尊重しつつも、さらにそれよりも趣味のいい選択のなされた過不足ない家財道具に取り巻かれたこの家は、張遼がひとり住み暮らすには、惜しいほどの贅沢さだった。



「郭嘉……どの」
「なんど云わせる。
 付け忘れる敬称は、不要だと」
「奉孝」
「いきなり馴れ馴れしい奴だ」
 あらゆる感情を、長い時間をかけて飼い馴らしたうえの、なにもかもを包みこむ、あえかな笑顔を郭嘉に向けて、張遼は、云った。
「信じるものは、救われる」
「……!!」
 こんな風に、うまく笑えたことなんて、ない……
「救ってくれる?
 たいそうな大言壮語だ!」
 きつく吊った眸は、それだけで相手を射すくめるほどの視線の強さを持っている。
「モノは試し、と…云うだろう?」



 ―――信じて、みないか?



 ソレハ口説キ文句。






|| モドル|| 『滔天廻路:上演作品目録』|| ススム||
製作年月日:20:36 2005/06/09
文責:市川春猫